示温印刷とは、特定の温度帯で可逆的に変色を繰り返す印刷のことで、基本的には示温インキや液晶インキとよばれる特殊インキを用いた印刷です。
その歴史は古く、マイクロカプセル技術の進展と共に1970年代から開発が進み、カイラルネマチック(コレステリック)液晶や、示温剤と呼ばれる原料をインキ化し、そのカプセル粒径が10ミクロンと印刷向けとしては比較的大きかったため、主にシルク印刷で加工される印刷物への採用が進みました。
現在ではマイクロカプセル技術やインキ化技術の進展により、シルク印刷だけではなく、グラビア印刷、オフセット印刷でも使用されており、用途は少しづつではあるが広がりを見せています。
アイキャッチ効果も
スーパーやコンビニで「冷蔵庫で冷やして、文字が現れたら飲みごろ」などと書かれたシールが貼られた商品を見たことはありませんか。
ぬるい状態では色がないシールが、冷えることで「飲み頃です!」の文字が浮かび上がり、冷えている事を教えてくれ、アイキャッチ効果や目で変化を楽しむことができる印刷です。
偽造防止にも
示温印刷は色相こそ単純なので家庭のインクジェットプリンターでも真似ができるかもしれません。ですが、温度により色が変化する「機能」は家庭用プリンターやコピー機では真似できるものではなく、示温インキを使用した印刷物は偽造する事が困難です。このため、役所の書類や機密文書用紙など、幅広い場面で採用が進んでいます。
偽造防止を施した証明書用紙の例
住民票や印鑑証明などに使用される証明書用紙には様々な偽造防止が盛り込まれています。
カラーコピー防止、すかし、マイクロ文字等に加え、天地の端に花の模様を印刷し、そこに示温インキを使用するケースが多くあります。
この用紙の左上に印刷されている花の図柄に印刷された示温インキ。
基本的にオフセット印刷が多く採用されています。
ピンクの花びらを手や指で温めると色が消え、花びらが白く変化します。
コピーやプリンターで色調の再現は可能ですが、温度により色が消える「機能性」は再現できないため、一定の偽造防止効果が期待できます。
示温印刷で最も使われる温度帯は、手で触ると色が変化する27タイプ。
この温度帯を使用した面白い採用事例があります。
以下、電通報より
読売新聞大阪本社と電通関西支社は12月11日、読売新聞の創刊140周年特別企画として、新聞業界では初となる「温めると消えるインク」(示温インク)を使ったプロジェクトを実施した(協賛=パナソニック)。
見開きスペースは、東京を中心にした国土の衛星写真で、紙面を温めることで示温インクの部分が消える。温暖化が進み海面が約7メートル上昇したケースを表し、湾岸部や河川流域の陸地が浸食されることが体感できる。今回使用したインクは、33度以上の温度で温めると消色するもの(24度で発色)。
一般的な枚葉オフセット印刷で作成された読売新聞のタブロイドに、示温インキを採用し、地球温暖化による危機を分かりやすく伝えています。
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